語 源 の 森

t y m o l o g i a


 

Twitter でおなじみの ラテン語さん、その日々のつぶやきから

語源にまつわる記事を厳選してお届けします。 

 

この森はいつのまにか増殖していくようですので

時々散歩にいらしてください


SEPTEMBER


2022/9

アテネ・フランセ

「アテネ・フランセ」というフランス語学校がありますが、なんで「アテネ」?と思う人も多いはずです。フランス語のアテネ(athénée)は「学院」という意味で、これはハドリアヌス帝が創設したギリシャの修辞学や文学の研究施設アテーナエウムが元です(語源はギリシャ語「アテナ神殿(Ἀθήναιον)」)。

 

パープル

古代ローマでは、紫の染料はかなり貴重でした。原料のシリアツブリボラという貝ひとつから取れる量はほんの僅かで服一着を染めるために多くの貝が必要だからです。紫の染料を使った服は皇帝など位の高い人が着用し、ラテン語の purpura「紫色の染料」という語は「高位」や「皇帝」を指すこともあります。

 

カツレツ

「カツレツ」の元は英語の cutlet、その元はフランス語 côtelette「骨付き背肉」、そしてcôtelette は古フランス語coste「肋骨」に指小辞が付いたものが元になっています。coste の元はラテン語 costa「肋骨、側面」が元で、costa は英語 coast「海岸」の語源でもあります。

 

キンモクセイ

この時期に香りを感じるキンモクセイの学名は Osmanthus fragrans で、ラテン語の意味は「香りのよい osmanthus 」で、osmanthus は古典ギリシャ語 ὀσμή「香り」+ ἄνθος「花」という要素から成り立っているので、「キンモクセイと言えば香り」というのは学名からも強く伝わっています。

 

水曜日

水曜日はラテン語で dies Mercurii、フランス語で mercredi、スペイン語で miércoles、イタリア語で mercoledì と言い、意味合いは「メルクリウスの日」で、商人の守護神である「メルクリウス」は英語 Mercury「水星」や mercury「水銀」の元でもあります。偶然にも、水銀にも「水」という字が入っています。

 

鉄アレイ

鉄アレイの「アレイ」は日本語です。元々は唖鈴(口のきけない鈴)と書かれていて、英語の dumbbell(ダンベル)を訳したものです。“dumbbell" の語源は、教会の大きな鐘を鳴らすような動作で重石をつけた紐を引っ張って体を鍛える道具です。実際に音は出ないから「口のきけない(dumb)鐘(bell)」なのです。

 

ワシントン D.C.

アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.の D. C. は District of Columbia「コロンビア特別区」の略で、Columbia は「コロンブスの地」という意味です(元は探検家のクリストファー・コロンブス)。ちなみに人名の「コロンブス(Columbus)」自体の語源は、ラテン語の「雄バト (columbus)」です。

 

チャペルと雨合羽

礼拝堂という意味の英語 chapel(チャペル)は、雨ガッパの「カッパ」と語源が同じです。chapel の語源はラテン語 cappella「小さな外套 (←cappa「外套」)」で、トゥールのマルティヌスが貧しい人に扮したキリストに与えたとされる外套を保存した建物を ”cappella" と呼んだのがはじまりです。また、イタリア語の a cappella は「教会風の」という意味ですが、これが「アカペラ」の元です。「アカペラ」と「チャペル」、そして雨がっぱの「カッパ」は同じ語源です。

 

ファックス

ファックスの語源は結構面白くて、これは「ファクシミリ(英語: facsimile)」の略なのですが元はラテン語で「同様の物を作れ (Fac simile)」という命令なのです。

 

キャバクラ

キャバクラはキャバレークラブの略で、フランス語の cabaret 「キャバレー」の元はフランスのピカルディ地方の古い方言のcambrete「小部屋」(cambre「部屋」+ 指小辞)で、cambre の元はラテン語 camera「部屋」です。カメラはラテン語 camera obscura「暗室」が元なので、キャバレーとカメラは同語源です。

 

ビーカー

「ビーカー(beaker)」と、液体を入れる「ピッチャー(pitcher)」の語源は中世ラテン語 bicarium(または picarium)で、元が同じなのです。したがって液体を入れる方のピッチャーは「pitch する人」ではないのです。野球のピッチャーは普通に 「投げる(pitch)人」です。

 

ペレストロイカ

ゴルバチョフ書記長の下でソビエト連邦で行われた改革を指すロシア語「ペレストロイカ」は、分けるならペレ / ストロイカです。перестройка (perestrójka) は pere-「再び」+ strójka「建設」なので、全体的に「建て直し」という意味です。リストラと略される restructuring「再構築」と似たものを感じます。

  

半島

英語 peninsula 「半島」 の語源であるラテン語 paeninsula「半島」の成り立ちは、「ほとんど(paene)」+「島(insula)」です。ちなみに「半島」はアラビア語で al-jazīra と言い、カタールに本部を置く衛星テレビ局の名前にもなっています。

 

バーボン

「バーボンウイスキー」で知られるバーボンという地名は、フランスの「ブルボン朝」が元です。アメリカ独立戦争の際にブルボン(Bourbon)朝フランス王国がアメリカ側に味方したことに感謝し、ジェファーソンがケンタッキー州の郡の一つを「バーボン(Bourbon)郡」と名付けました。また、お菓子メーカーのブルボンがなぜあの名前になったかというと、昭和20年代にインスタントコーヒーを製造した際に豆の生産地のフランス領ブルボン島から「ブルボンコーヒー」と名付けたことが元です(現在はレユニオン島といいます)。

 

オタンチン

『吾輩は猫である』に出てくる罵倒の言葉「オタンチン・パレオロガス」は、東ローマ帝国最後の皇帝「コンスタンティノス11世パレオロゴス」の英語名 "Constantine XI Palaiologos” が元になっていると考えられます。

 

ファシズム

「ファシズム」の語源はラテン語の fasces(ファスケース)で、これは斧の回りに木の棒を束ねたものを意味し、古代ローマの執政官の権威の象徴とされたものです。この象徴は「統一による力の強さ」を表します。1本の枝は簡単に折れますが、束になるとなかなか折れないからです。

 

ライバル

川はラテン語で rīvus と言い、「同じ川の水を使う相手」という意味の rīvālis は後に「競争相手」という意味も生まれ、英語の rival「ライバル」の語源になってます。「競争相手」を指すラテン語は他に aemulus があり、英語の emulate「まねる、張り合う、(別のソフトなど)と同じ機能を果たす」の語源です。

 

サイダー

サイダーは英語cider「りんご酒」が元ですが、さらに遡ると古フランス語 cidre、中世ラテン語 sicera、古典ギリシャ語 síkera を通じてヘブライ語 shekhár「酒」に行きつきます。語源が「酒」なのにノンアルコール飲料を指すようになったのは面白いです。

 

りそな

りそな銀行の「りそな」はラテン語で「響きわたれ(resona)」という意味です。これは resono「響きわたる」の命令で、resono は英語 resonance「反響、共鳴」の語源でもあります。

 

ビバンダム

ミシュランのマスコット「ビバンダム(英語圏ではミシュランマン)」の名前の由来は、初期の広告に書かれたラテン語"Nunc est bibendum"「今こそ飲むべし」です(ホラーティウス『歌集』第1巻より)。これはミシュランのタイヤが道路上の障害物を踏んだ衝撃を ”飲み込む"(吸収する)ことを表しています。

 

メナード

ギリシャ神話絡みの社名や商品名は幾つもあり、化粧品を売る「メナード」もその一つです。フランス語の ménade あるいは英語の maenad は、ギリシャ神話の酒神バッコス(ディオニューソス)の供をする信女を指します。彼女たちは狂乱することが常で、ギリシャ語由来の英語 mania「熱中」も同じ語源です。

 エトセトラ

「渚にまつわるエトセトラ」等にある「エトセトラ(etc.)」はラテン語です。略さず書くと et cetera で、「その他もろもろ」という意味です。発音は「エト・ケーテラ」で、エトセトラは英語風に読んだ発音です。ちなみに &(アンド)の記号はここにもあるラテン語の et の文字を合わせた物が元です。ジーニアス英和大辞典やロベール仏和大辞典では "etc." や "et cetera" を人に使うのは失礼な感じがある、あるいは人に使うのは避けられると書いていますが、元のラテン語が分かると納得します。"et cetera" は英語にすると "and other things" なので、人を物扱いしていると感じられる恐れがあるからです。

 

Re:

電子メールの返信につく "Re:" は reply「返信」の略ではなく、ラテン語 "in rē”「~に関して」の略なのです。

https://datatracker.ietf.org/doc/html/rfc5322  [3.6.5]

 

ゼロ

「ゼロ(zero)」の語源はアラビア語 ṣifr「ゼロ」です。また英語 cipher「暗号」の語源も同じくṣifr です。これは暗号文に数字が使われていたからと考えられています。他にもフランス語 chiffre「数字」の語源も同じです。『007/カジノ・ロワイヤル』に出てくるル・シッフル(Le Chiffre)の chiffre です。

 

ナイス

英語の "nice" ほど何回も意味が変わった言葉は珍しいです。まず語源はラテン語 nescius「知らない」で、英語では最初「愚かな」という意味でした。そこから「臆病な、内気な」「気難しい」「好みにうるさい」などと意味が変わり、「繊細な」という良いニュアンスが生まれて「素敵な」になりました。

 

ティラミス

ティラミス(tiramisu)はイタリア語で「私を元気づけて(Tirami su)」 という意味で、同様の意味の英語 "pick-me-up" は「元気回復のための飲食物」という意味です。今は販売終了した PICK UP というお菓子がありましたが、ここから名づけられたのでしょうか。

 

ガラパゴス

ガラパゴス諸島のガラパゴスとは、古いスペイン語で「ゾウガメ(galápago)」という意味です(現在のスペイン語では galápago は「カメ」)。この地に降り立ったヨーロッパ人がこの地で見たゾウガメが印象的だったことから名づけました。

 

gun

英語の gun 「拳銃」の語源は、スカンジナビアの女名 "Gunnhildr" が短くなったものだと考えられています。昔の人は投石機に女性の名前をつけることがあったためです。実際に14世紀、ウインザー城にあった大型の投石機が "Domina Gunilda” と呼ばれていたという記録があります。

 

deer / girl / meat

英語の deer「鹿」の語源の古英語 dēor は「動物」という意味でした(ドイツ語 Tier「動物」は同じ語源です)。また、girl の語源の中英語 gerle は「子供(どんな性別でも)」を指します。さらに meat の語源の古英語 mete は「食べ物」で、その名残が sweetmeat「砂糖菓子、果物の砂糖漬け」に残っています。

 

very

英語の very「とても」の語源はラテン語の verus「本当の」なので、同じく強調に使われる really(really good など)と元の意味は同じです。また、日本語の「マジうける」などの「マジ」は強調としても使われるので、very や really と似たものを感じます。

 

アパルトヘイト

南アフリカで行われた人種隔離政策「アパルトヘイト」のヘイトは、"憎悪" ではないです。アパルトヘイト(apartheid)は南アフリカ共和国で話されているアフリカーンス語で、”apart" は「離れている」、"heid" は「状態」を表す名詞を作る接尾辞です。英語 child-hood の "hood" と語源的関係があります。

 

セピア

「セピア色」の「セピア」の語源は、古典ギリシャ語の「コウイカ (σηπία)」 です。昔はコウイカの墨がインクの原料として使われたからです。

カウンター

レジカウンターなどの counter と、counterattack「反撃」などのcounter は語源が違います。前者の語源はラテン語 computator「計算する人」で、後者の語源はラテン語 contra「対して、反して」です。

 

ミネストローネ

「ミネストローネ」の語源は古いイタリア語 minestrare「料理を配膳する」で、minestrare の語源は同じ意味のラテン語 ministrare です。ラテン語 ministrare には「奉仕する」という意味もあり、英語 minister「大臣」の語源でもあります。

 

パラサイト

「パラサイトシングル」などに使われる英語 parasite「居そうろう」の語源は古典ギリシャ語の παρά「側に」+ σῖτος「穀物」なので、parasite は日本語の「穀潰し」と似ています。ちなみに英語の parasite は「居そうろう」という意味が先で、そのあとに「寄生虫」も指すようになりました。

 

クロワッサン

「クロワッサン」と「クレッシェンド」は語源が同じです。前者は三日月(フランス語 croissant)の形で、後者はイタリア語で「次第に増大すること(crescendo)」です。どちらもラテン語 crescere「成長する」に遡れますがなぜ三日月が成長と関係があるかというと、三日月は満ちていく最中の月だからです。

 

ヒロポン

疲労感を飛ばす薬として売られていたヒロポンは「疲労をポンと飛ばす」から名付けられたのではなく、「働くのが好きな」という意味の古典ギリシャ語 φιλόπονος が元になっています。ヒロポンのラベルにもちゃんと ”Philopon" と書かれています。

 

アンソロジー

「アンソロジー(作品集、詞華集)」の語源は、古典ギリシャ語の「お花集め(ἀνθολογία)」です。作品集に載った作品は、いわば摘まれた一つ一つの花なのです。ロマンチック。

 

チャルメラ

ラーメンの名前にもなっている「チャルメラ」の名前の元は中華そばの屋台の人が用いた楽器「チャルメラ」ですが、その楽器名の元はポルトガル語 charamela で、charamela 自体の語源はラテン語calamus「葦、葦笛」です。

 

レンズと醤油

私の周りでも勘違いしてる方がいるのですが、レンズ豆はレンズに似てるから「レンズ豆」と呼ばれたのではなく、光を収束したり発散させるガラスがこの豆に形が似てるから「レンズ」と呼ばれたのです。レンズの語源はラテン語 lens で、古代ローマ時代のラテン語 lens にはレンズ豆の意味しかありません。また、「英語の soy sauce(醤油)は soybean(大豆)から作られるから soy sauce と呼ばれる」のではなく、「soy(醤油)の原料だから大豆が soybean と呼ばれる」のです。そして英語 "soy" の語源は日本語の「しょうゆ」です。

 

プロトコル

「プロトコル(protocol)」は元々「条約の原案」という意味です。語源は古いギリシャ語 πρωτόκολλον「パピルスの巻物の最初の部分」で、昔の人は複数のパピルスのシートを糊で接着して巻物にしており、その最初のシートに作成日などを記していました。ちなみにパピルスは英語 ”paper" の語源です。また、ここでプロトコルの語源として挙げたギリシャ語 πρωτόκολλον は πρῶτος「最初の (プロトタイプの「プロト」などの元)」 とκόλλα「糊」という要素から成り立っていて、κόλλα「糊」は「コラージュ」の「コラ」の部分の語源でもあるので、プロトコルの「コル」とコラージュの「コラ」は元が同じです。

 

ジム

ジムの語源は「裸」です。ジムは "gymnasium" の略で、これは古典ギリシャ語 γυμνάσιον「学校」が元ですが、この語はさらに γυμνός「裸の」にさかのぼれるのです。理由は、古代ギリシャのアスリートが裸でトレーニングしていたからです。

 

9月

9月になってしまいました。英語 September「9月」の "septem-" の部分は7という意味なのですが(例: septangle「七角形」)、これは古代ローマの一年が英語 March「3月」の語源の Martius という月から始まっていたことに由来します。Martius から数えて第7番目の月なので、ラテン語で September と言われました。


AVGVSTVS


2022/8

フランク

「フランクに話す」は「自由に話す」という意味ですが、これはラテン語 Francus「フランク族の者」が後に「自由人」を意味するようになったのが始まりです。かつてフランク族が支配した地域では、フランク族の人だけが奴隷でなく自由身分だったので「フランク」が「自由」も意味するようになりました。

 

cancer

英語の「かに座(Cancer)」と「がん(cancer)」の綴りが同じなのは偶然ではなく、どちらもラテン語 cancer「カニ、がん」が語源です。「がん」も指すのは癌細胞付近の血管をカニの脚に喩えたからと考えられています。またフランス語の cancre「劣等生」の語源もラテン語 cancer「カニ」で、カニの動きがのろいことが元です。

 

チャリティ

チャリティ(charity=慈善行為)の語源はラテン語の caritas です。これは元々「好意」や「高価」という意味でしたが、キリスト教において「隣人愛」という意味で使われるようになりました。

 

デトックス

デトックス(detox)の tox の部分は「毒」という意味ですが(de- は分離を意味する接頭辞)、語源は古典ギリシャ語の τόξον「弓」です。つまり detox の ”tox” の部分の原義は「矢に塗られた毒」なのです。

 

シャンゼリゼ

古典ギリシャ語の Elysion pedion は文字通りには「エリュシオンの野」ですが、これは英雄たちなどが死後に住む「極楽」を指します。これがラテン語では campi Elysii と言われました。campi Elysii がフランス語に入って Champs-Élysées になりました。パリの「シャンゼリゼ通り」の名前の由来です。

 

cis / trans

ラテン語で cis は「こちら側に」、trans は「向こう側に」で例えば Gallia Cisalpina はローマから見て「アルプスのこちら側のガリア」、Gallia Transalpina は「アルプスの向こうのガリア」です。この cis と trans が性自認の種類を表すシスジェンダーとトランスジェンダーの「シス」と「トランス」の元です。

 

アクリル

アクリル板の「アクリル」の語源は、意外にも「激臭」です。acryl(アクリル)は acrolein「アクロレイン」と -yl から成り立っていて、acrolein はラテン語の acer「きつい」+olere「匂いがする」から出来ています。 -yl の語源はギリシャ語 ὕλη(ヒュレー=材料)。

 

カジュアル

英語の casual「カジュアルな」の語源はラテン語 casualis「偶然の」で、英語では「その時々の」という意味から「偶発の」「行き当たりばったりの」なども指すようになりました。英語 casualty「死傷者」の語源はラテン語 casualis の派生語 casualitas「事故」なので、どちらも「偶然」が絡んでいます。

 

cow / beef

意外かもしれませんが、英語のcow「牛」とbeef「牛肉」は同じ語源です。cow はゲルマン祖語 *kōz「牛」から英語に入り、beef はラテン語 bos「牛」から古フランス語 buef「牛」を通じて英語に入りました。*kōz も bos も元をたどれば印欧祖語 *gʷéh₃-u-s 「牛」に行きつくので、つまり cowと beef は元が同じということになります。

 

チャオ!

イタリア語の Ciao !(チャオ、こんにちは)の語源はヴェネツィアの言葉であるヴェネト語の「奴隷(s-ciao)」です。この語を使って「私はあなたの奴隷(しもべ)です」という意味の相手を敬う表現ができ、これが現在のあいさつ Ciao ! の元になりました。 https://treccani.it/vocabolario/ciao/

 

自由の女神

自由の女神の元は古代ローマで崇拝されていた「リーベルタース(Libertas)」という、「自由」を擬人化した女神です。女神が持っている石板はよく見ると完全な長方形でなく取っ手がついていますが、これはラテン語で tabula ansata「取っ手がついた板」と呼ばれるもので、古代ローマ時代に広く用いられたデザインです。

 

オリゴ糖

オリゴ糖の「オリゴ」(oligo-)の語源は古典ギリシャ語で「少ない(ὀλίγος)」という意味です。なので、「ありがとう(有り難う)オリゴ糖」は部分的に意味が重なっています。

 

ユリイカ

たまに耳にする「エウレカ」「ユリイカ」「ヘウレーカ」という言葉はギリシャ語 εὕρηκα「私は発見した」が元で、これは動詞εὑρίσκω「発見する」の現在完了形です。アルキメデスが浮力の原理を発見した際、この言葉を叫んで外を走り回ったと伝えられています。

 

クリシェ

型にはまった表現を「クリシェ」と呼ぶことがありますが、語源もそれを表しています。フランス語の cliché(クリシェ)の元の意味は「製版(clicher)された」だからです。clicher「製版する」自体の語源は定かではないのですが、一説によると活字の母型が溶けた金属に当たる音を表している擬音語です。

 

ローズマリー

ローズマリーの「ローズ」は「バラ」ではありません。元はこの植物のラテン語名 rōs marīnus(ロース マリーヌス、意味は「海のしずく」)で、これが縮まって英語でローズマリー(rosemary)と呼ばれるようになりました。

 

モンスター

モンスター(monster)の語源はラテン語 monstrum「怪物」ですが、monstrum の元は moneo「警告する」という動詞です。これは、奇怪な生物は「悪い出来事がこれから起こる」という神々からの警告であると考えられていたからです。

 

ワインビネガー

「ワインビネガー」という単語を見るたびに人に言いたくなるのですが、「ビネガー」の語源はラテン語の vinum「ワイン」とacre「酸っぱい」なのです。また「ワイン(wine)」という単語自体の語源もラテン語の vinumです。意外なところだと、英語の vinyl「ビニール」の語源もラテン語の vinum「ワイン」+古典ギリシャ語の ὕλη「材料」で、ここにもワインが出てきます。

 

dunce

英語の dunce(=馬鹿)はもともと中世の哲学者である「ドンス・スコトゥス派の学徒」という意味でした。ドンス・スコトゥス派の学徒がルネサンス期になっても新学問を受け入れようとしなかったため、同時代の人文主義者から「新しい学問を受けつけようとしない人」と嘲られ、「馬鹿」を指すようになりました。

 

パンドラの箱

ギリシャ神話のパンドラの箱の話ですが、パンドラが開けたのはもともと箱ではありませんでした。古代ギリシャの詩人ヘシオドス『仕事と日』の記述ではその容器は「甕(πίθος)」だったのですが、それをエラスムスがラテン語で表す際に「箱(pyxis)」という単語を使い、これがきっかけで「パンドラの箱」という表現が広まりました。

 

フマキラー

この時期に活躍するフマキラーの「フマ」は英語の fumigate「煙でいぶす、燻蒸消毒する」の語源にもなってるラテン語 fumigare「煙をでいぶす」とか fumare「煙を出す」が元かなと思っていたら、fly「ハエ」と mosquito「蚊」の語の頭を取ったものだと知ってびっくりしました。

 

カルチャー

意外かもしれませんが、「カルチャー」と「カルト」は同じ語源です。どちらもラテン語 colo「耕す、住む、崇拝する」にさかのぼれて、カルチャー(culture)はcoloから派生したラテン語 cultura「耕すこと」が元で、カルトは colo から派生したラテン語 cultus「耕作、居住、崇拝」が元です。では「オカルト」はというと、これは別語源です。オカルト(occult)はラテン語 occultus「隠された」という、occulo「隠す」の完了受動分詞が元で、occuloの元はcelo「隠す」です。

 

ショッピングセンターの「イオン(AEON)」の名前の元は古典ギリシャ語の αἰών「時代、永遠、人生」です。科学の授業で習うイオン(ion)の語源は εἶμι「行く」の現在能動分詞中性単数形 ἰόν が元なので、ショッピングセンターのイオンとは語源が違います。

 

ダッチとドイツ

英語の Dutch「オランダ人」は、なんとなく「ドイツ」っぽいなと思っていて調べたら、Dutchと Deutsche「ドイツ」は同じ語源(ゲルマン祖語 *þeudō- (theudō-)「民」)でした。また、フランス語で「ドイツ」は Allemagne と言いますが、これは近くに住んでいたゲルマン人の「アレマン族」の名前が元です。

 

noon

noon「正午」 の語源はラテン語の nona hora「第9時」です。日の出から日没までを12等分しての「第9時」なので、昔は正午よりもっと遅い時間、大体現在の午後2~3時頃を指しました。その後に意味が変化し、今のように正午を指すようになりました。ちなみにシエスタ(siesta=昼寝)の語源はラテン語 sexta hora「第6時」です。

 

シェフ

フランス語 chef(シェフ、料理長)の語源はラテン語 caput「頭」で、元の意味は「リーダー」です(チーフ(chief)も同語源)。caput つながりだと英語の achieve「達成する」も同じ語源です。caput には「端」という意味もあるのでこれが元で出来たフランス語の achever「完遂する」を通じて英語に入りました。

 

ゲストとホスト

guest「ゲスト」, host「ホスト」, hostility「敵意」は全部語源が同じで、どれも印欧祖語 *gʰosti-「よそ者」にさかのぼれます。hospital「病院」や hospitality「おもてなし」の hos- の部分も同じく *gʰosti- が語源です。hospital は元々「宿泊所」や「慈善施設」という意味でした。

 

ジーニアス

ジーニアス英和辞典の「ジーニアス」は「天才」ではなく「守護神」という意味です。以前は「受験生の守護神」というキャッチフレーズで売られていました。genius の語源はラテン語 genius「守護神、才能」で、「ゲニウス・ロキ(genius loci =土地の守護霊)」のゲニウスもこれです。

 

小槍

ひとと話していると、アルプス一万尺のアルプスが日本アルプスだと知らない人が意外と多いことに驚きます。歌の歌詞に出てくる「こやり(小槍)」は北アルプスの槍ヶ岳(標高3180m)にある岩峰のことで、槍ヶ岳の標高はおよそ「一万尺(3030m)」です。

 

SUM

英語の sum「合計」の語源はラテン語の summa「合計、頂点」で、英語の summit「頂点」の語源のラテン語 summum「頂上」も summa の仲間です。なぜ一番上が合計になるかというと、古代ローマの人々は加算を私たちのように上の数字から下の数字にではなく、下から上に行っていたと考えられているからです。

 

インキュナブラ

西暦1500年以前に活版印刷された本を「インキュナブラ」と言いますが、この語源はラテン語incunabula「ゆりかご、幼年期」です。ちなみに「インキュナブラ」を答えさせる問題は2018年に『頭脳王』というクイズ番組でも出題されました。

 

マドモアゼル

フランス語の「マドモアゼル (mademoiselle)」は 「マ(=私の)」+「ドモアゼル」です。ドモアゼル(demoiselle)とは何かというと、「(中産階級の)奥方」や「お嬢さま」という意味です。語源はラテン語 domina「女主人」に指小辞がついた *dominicella です。

 

August

今日から8月です。英語の August の語源は、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥス(Augustus)です。英語ではもとの形をよくとどめていますが、フランス語の août (ウ、またはウト)「8月」はかなり変わっています。この月は元は Sextilis「6月(昔は3月から数え始めていたため)」と呼ばれていましたが、元老院が彼にちなんだ名前に変更しました。



探索はまだまだ続きます 

 

その森は広大で奥深く、、